第13回 「禁戒④ まとめ」

 食事を単なる栄養補給と考えるのでは説明の付かないことがたくさんあります。なぜおいしいものを食べたいのか、なぜ会食をしたいのか、盛りつけや器にこだわるのはなぜか、などです。人間は食事によって総合的な満足を得たいと願っています。もちろんバランスの取れた食事の内容も満足の大きな一因です。最近になって私たちは食品の栄養に対する知識を吸収してきました。もちろんそれは大事なことですが、知識に振り回されると大きなものを見失います。

 人間のほとんどの行動は満足を得るためになされます。心が落ち着く方向へ行動するのです。食事も例外ではありません。だとすれば、徹底的に満足を追求するべきです。もちろんそれは美食や大食を意味してはいません。美食や大食では粗雑な満足しか得られないからです。食後にしばらく目を閉じてみてください。内側からわき上がるような喜びを感じるでしょうか。この喜び、この満足感を指標として食事の内容、そして食事の環境の善し悪しを判断してください。

 

  • 瞑想ノート……禁戒④ まとめ

 禁戒(yama)には5つの項目があります。まとめてみますと、

非暴力…体、言葉、心での暴力を慎む。

正 直…嘘をつかない、言動の一致、自分の心に正直であること。

不 盗…盗まない、盗んで得られるものは何一つない。

禁 欲…性的エネルギーの保存。

不 貪…むさぼらない、執着しない。

 このうち非暴力、正直、不貪については解説いたしました。不盗については常識的に考えて頂ければ結構です。カルマ(行為の結果は必ず自分に返ってくること)を考えれば、盗みや暴力がいかに自分にとって不利であるかが分かるはずです。禁欲の戒は昔、修行者が独身を通した頃の名残の戒です。現在は不貪の中に含めて考えて良いでしょう。

 どんな人もある程度はこれらの戒を実践しているはずです。もし一つも実践していない人がいたとしたら、すべての自由を剥奪されて監獄の中で恨みの塊となっているはずです。戒を守ることによって、社会的な自由や人間関係における自由、そして心の自由を獲得することができます。どの程度自由になれるかは戒をどの程度守れるかによっています。

 戒を守るとは私たちの言動のパターンに考察を加えて修正していく作業に他なりません。言動のパターンは幼い頃から自律的に、あるいは教育によって身につけたものですから、無意識的に私たちはこれらのパターンを繰り返しています。私たちの日常の言動の大部分はこの無意識的に繰り返されるパターンと言って良いでしょう。

 これに修正を加える方法は一つしかありません。言葉を発する前に、行動を起こす前に、戒を思い起こすことです。ですから戒は是非とも覚えておいてください。慎重にこれを行ううちに言動のパターンが変わり始めます。そして悩みや苦しみが減り、自由を覚えるようになります。ヨーガに親しみ、瞑想の機会を持っている今こそそれが可能です。

 また、子供のうちから戒にはずれない言動パターンを身につけた方が良いに決まっています。そのためになされるべきことは、親と教師、そして子供に接する機会を持つ人すべてが戒を守ることです。戒にはずれないように子供に接することです。あえて禁戒を教育と称して子供に教える必要などありません。

 

1995年7月30日