第38号 バガバッド・ギーター 8 行為によるヨーガ
- バガバッド・ギーター……第三章(1~8) 行為によるヨーガ
<あらすじ>
王位継承を賭けて大合戦に臨もうしている勇者アルジュナは、敵陣に居並ぶ肉親や親族を見て戦意を喪失する。参謀としてアルジュナ側についた神の化身クリシュナはアルジュナを励ますためにヨーガの秘伝を解き明かす。第二章では次の点が説かれる。肉体は死んでも魂は永遠に存在し続けるので賢者は生死を嘆かない。また、愚者は結果を動機として行為し、そしてその結果に束縛されるが、賢者は結果に惑わされることなく、ただ義務を遂行することに専心する。そのためには五感を制御し、自我から生じる欲望を捨て、心の平安を確立する必要がある。
アルジュナはたずねた。
「クリシュナよ、もし行為より智慧が優れていると考えられるなら、なぜ、あなたは私を恐ろしい行為に駆り立てるのか。1
あなたは難しい言葉で私の知性を惑わすかのようだ。はっきりと、ただ一つのことを言ってください。それによって私が至福を得られるような…。」2
クリシュナは告げた。
アルジュナよ、この世には二種の立場があると、前に私は述べた。すなわち、知識のヨーガによる哲学的立場と、行為のヨーガによる実践者の立場とである。3
人は行為をすることなしに、行為のヨーガ(カルマヨーガ)を達成することはできない。単に一切の行為を放棄することでは、それの成就はあり得ない。4
一瞬の間でも行為をしないでいることは誰にもできない。なぜなら、すべての人は根本自性から生ずる要素により、否応なく行為させられるのである。5
行為することを止め、ただひたすらに座すとしても、心が五感の対象物を追い求め、迷っているようであれば、彼はえせ行者と言われる。6
しかし、五感を制御し、執着のない状態で、様々に行為する人は行為のヨーガの状態にある。彼はよりすぐれている。7
あなたは人間に定められた行為、そしてあなたに定められた行為をなせ。行為は無為よりも優れている。もし、あなたが何も行わないなら、身体を維持することさえできないだろう。8
- 解説……根本自性、要素
三章のはじめにアルジュナは「もし行為より智慧が優れていると考えられるなら・・・」と問っていますが、これは少し見当はずれな質問です。アルジュナはまだクリシュナの説くヨーガをよく飲み込んでいないのです。そんな彼(私たち)のためにクリシュナは手を変え品を変え、いろいろな説明の仕方でヨーガを解き明かします。
さて、インド哲学ではこの宇宙、この世界はただ一つの原理(プルシャ)から生じていると説明します。そして人間にも路傍の石にも同じ原理が宿っているとするのです。そして、人間を人間らしく、石を石らしくしているのが、この原理の下位に存在する根本自性(プラクリティ)です。根本自性はさらにその下位において3つの要素(グナ)に分かれます。要素は精神次元では善性、動性、暗性に分かれ、物質次元では風の要素(ヴァータ)、火の要素(ピッタ)、水の要素(カパ)に分かれ、そのものの性質を決定します。ちなみにプルシャはブラフマンと同義語です。
1996年5月7日